またある日のこと。 初等部一年。

 

 

・風の塔506前

 

 

どうも、ボクです。
今日もボクは主に上級生が立ち入るフロアに来ています。
お姉ちゃんが廊下に髪留めを落としてしまったのを
拾ってくるように頼まれてきたのです。
ひどいです。パシリです。
確か風の塔の五階あたりで落としたと言ってしました。
名前が書いてあるのですぐわかるそうです。
はぁ、上級生のフロアでは
以前さんざんな目にあったのでトラウマです。
もう、すでに泣きそうです。
……あっ、あそこにいるのは!?
ウホッ、君か。またしてもこんな上級生のフロアでどうしたのだ。
こういうところは普通、居づらいものだが、
君はなかなか肝が座っているな。
ヒィ! あ、あのときのゴリラ!!!
ひぇぇぇえ、た、たたた助けてください!
何でもしますから命ばかりはお助けをぉぉおお!!
おおう! どうした、そんなに怯えることはないよ。
ゴリラの姿が怖いのか。大丈夫だ。これは仮の姿だよ。
本当は人間なので安心するといい。
……うぇぇぇえん、ひっく、え、人間?

そうウホ、人間ウホ。ここの院生で、ユウク=ケダッシュと言うのだ。

いいから、信じなさい。

ヒィ! ユウク先輩!!?
あの下級生の教室を練り歩いてはカツアゲをして回ったり、
下級生を拐かしては怪しげな人体実験に使ったりしていると噂のユウク先輩!!?
ぶほっ!
何だその噂は、でたらめもいいところだ。
いったい誰だそんな噂を広めたのは……。
……お、そうだ、せっかくだから君にも聴いておこう。
キルユ=コ=ルネッラという人を知らないか。
先日そこで髪留めをひr……
お、おおおお姉ちゃんに何をするつもりだッ!!!
へ、ヘヘヘ変なことをするつもりなら許さないぞ!!!
そうか、君のお姉さんなのか、ちょうどよかった。
ちょ、ちょちょちょうどいい!!!!?
どういうことだ! おおおおお姉ちゃんに近づくつもりなら、
ぼ、ボクを倒してから行けぇっ!!
……困ったな。ずいぶんと錯乱しているようだ。
おや、あそこにいるのは。




あ、ゆうくさんこんにちは。ぶっぽるぶっぽる。
あらあらゆうくさん、こんなところで奇遇ですね。
おお、コーヤ君にあすらさん。
いいところに来た。実は、この子のお姉さんに用があるのだが、
さっきから怯えてしまって、全然話を聞いてくれないんだ。
まあゆうくさん、お盛んですこと。
違います。
あ、その子からどや焼きのにおいがする。ください!
ちなみに僕はユウク=ケダッシュです! 人体実験が好きです!
こらこらこら! ますます怯えてしまうだろう。
って、コーヤ君、何言ってるの! 君か、犯人は!
テフェフェー。(どやっ)




ええと、とりあえず状況を整理しよう。
この子のお姉さんに用があるのだが、
さっきから怯えてしまって話ができない。どうしようか。
電波を送信してみてはどうでしょう。
この学園の生徒なら全員専用のアドレスを持っているはずですし。
おお、名案だな。
おっと、うっかり送信用の魔具を忘れてきてしまった。
コーヤ君、文面は言うから代わりに送ってくれないか。
もちろんです! どや飯前です!(どやっ)
ええと、先日風の塔の廊下で髪留めを拾いました。
名前が書いてあったのですぐにあなたのものをわかり、
お届けしようと思っていたところ……
ぶっぽるぶっぽる。(執筆)
廊下でばったり弟さんにお会いしました。
ですが、彼は上級生のフロアということもあり、
少し怯えて錯乱しているようなので、迎えに来てはくれませんか。
どやどやどやっ。(執筆)
この髪留め、見たところご自分で作られたように思います。
大変非凡な出来栄えにいたく感激いたしました。
今度どや焼きなど持参して伺いますので、
もしよろしければ、製法などお教え願えませんでしょうか。
うむ、だいたいこんなところだな。
へえ、ゆうくさん、髪留めに興味があるんですか。
うん、あっきさんがすふげの花飾りが欲しいと言っていてな。
つてがないかと頼まれていたのだ。応用できると思ってなぁ。
できました! 送信します!
ピロリロリーン(送信)




お前の弟は預かった。
返して欲しくば風の塔506号まで、
どや焼きを持ってこい。
                ユウク=ケダッシュ


打ち間違えたりしてないだろうな、はっはっは。
もちろんです!(どやっ)



  ・一方そのころ

 

 

こ、これは、異界からの電波!?
いや、違いますね。学生用電波アドレスからの電波みたいだ。
他の人への電波も、たまに受信しちゃうんだよなぁ。
受信、した、けど、そう、ちょっとだけ、ちょっとだけなら、
見ても、いいよね。
……。
……。
……。
た、たたた大変だぁぁあああ!!!!!




つづく